作品の価格をどう設定する?

作品の価格、これは誰にとっても悩ましい問題です。おそらく、売り手も、買い手も、作り手も、どの業界であっても、答えのない永遠のテーマです。しかし、悩んでばかりいる訳にはいきません。

作品の価格設定サムネ

これは誰にとっても悩ましい問題です。おそらく、売り手も、買い手も、作り手も、どの業界であっても、答えのない永遠のテーマです。しかし、悩んでばかりいる訳にはいきません。

自分の作品にプライドや自信を持つことも大切です。しかし、さまざまな人の意見に耳を傾けることができれば、信頼を獲得することが出来ます。作家が信頼を得ること、それが作品の価格に必ず加算されています。

目安

下記は、あくまでも私の経験を通しての目安であって、万人共通というわけではないかも知れなせん。一つのアドバイスとして確認して下さい。

1.素材の違い

素材が紙である場合、どんなに高級な紙を使っていても、キャンバスよりは低い値段であることが通常です。
あくまでも目安です。

例外はあります。それは、コンセプチャルアートの場合です。デュシャンは、チラシやハガキなど、日常にあるものに少し手を加えただけのものを高額に売買することに成功しました。それは、デュシャンがパイオニアだったからです。カリスマ性を発揮したからです。

また、あまり知られていませんが、「叫び」で有名なムンクの作品は、厚手のクラフトボードに油彩で描かれたものです。オークションでは、これも高額に売買されました。それもこのような素材にも関わらず、人類共通の感情表現を残すことが出来たからです。またそのような日常のどこにでもある紙に、歴史に残る表現を残せたと言う意味でも画期的だったからです。

もし紙の作品を高額に売りたい場合は、それなりの意図が求められ、できれば説明なしでも、作品とタイトルだけで人を納得させる何かが求められます。

2.複製作品か?1点ものか?

版画、写真、印刷物、デジタルアートなど、幾つでも同じ作品がこの世に存在するものは、1点ものよりも低い価格設定であることが通常です。特に、その制作のためのアイデアスケッチや、原画などがある場合は、その原画よりも高くなることはまずありません。ただし、これにも例外はあります。

・誰にも真似できないような高度な技術で複製が行われた場合。(例:長谷川潔のメゾチント作品など)
・複製作品に、それぞれに異なった加筆がある場合。(例:ゲルハルト・リヒターのoil on photoシリーズなど)
・著名な人物が収集したと言う事実が知られている場合。(例:スティーヴ・ジョブズが集めた新版画など)
・複製数が少なく、多くの人が欲しがっている希少作品(例:葛飾北斎の浮世絵)

3.サイズ

作品を長年売っている作家の価格リストには、あまり矛盾がありません。個展のキャリアを積むうちに、お客様やギャラリーの目から大体妥当な金額が徐々に確立していくからです。「この人のこのサイズならこの金額で売っていた」と言う事実が定着すると、それを突然変えたり、矛盾した価格がついていると信頼を失うからです。

作家の初個展を応援してくれるようなレンタルギャラリーの多くは、あらかじめ開催前に出品リストを提示するよう求め、ある程度のアドバイスをしてくれます。同じギャラリーの他の作家と比較して、妥当な価格をアドバイスしてくれます。その場合、大体、サイズごとの金額が決まっていきます。

昔は、「号いくら」と言う決まり文句がありました。もう廃刊になりましたが、『美術家年鑑』という電話帳のような冊子に、有名作家の名前とともに、「1号○○万円」という情報が明確に印刷されていて、毎年発行されていました。今でも、古美術商の間で、この言葉を聞くことはありますが、すでに明確な情報は誰もわからなくなりました。

その代わりに、オークションや美術商の集まる交換会での取引機価格が基準になっています。そういう場所に出入りしている画商系のギャラリストは、新参作家に厳しい価格をつけます。そうでないと、この業界に詳しい本当のコレクターに買ってもらえないからです。

4.画歴

個展会場には、大抵会場の展示平面図とそれぞれの価格のリスト、そして作家の画歴です。ギャラリー周りをしている人たちは、必ずこの情報をチェックします。

作品そのものが良いことはもちろん、その作品がここで発表出来たコンテキスト(文脈、背景、経緯)を知りたがります。

どこどこの美大を出たからと言うような安易な理由を知りたいのではなく、むしろ、「美大を出ていないのにこういう作品を作る人が現れるようになったのか!」とか、「このような意外な職種の人が作家になった」と言うようなことを知りたい場合もあるのです。自分のコンプレックスは、他人の憧れになる場合もあります。ギャラリーに恵まれていない場合、作品に魅力があれば、必ずお節介な人がいて、「このギャラリーにここの個展の案内状を送るといいよ。」とまでアドバイスしてくれることがあります。ただし、アドバイスをしようとしても、その場所にいなければ誰の声もその作家には届きませんが。

受賞歴、パブリックコレクション(美術館所蔵など)、国際アートフェア、どういうギャラリーで発表しているか?どのようなグループ展に参加しているか?大体ギャラリー周りをしている人ならば、それが企画なのか?レンタルなのか?すぐに見抜きます。

5.企画か?レンタルか?

その作家が、ギャラリー一押しの作家である場合は、作家を育てるために企画(無料)で取り扱います。その場合に作品価格は少し上げることが出来ます。

しかし、レンタルギャラリーで、その場所のオーナーが顔をほとんど出さないような場所で発表する場合は、低価格を提示するのが妥当です。そうでないと、この業界をよく知らない人という扱いになり、誰からもアドバイスをもらえなくなって行きます。

暗黙の料金設定は、確かに存在しますが、そのことを直接教えてくれる人はレンタルギャラリーには、滅多に来ません。価格がちょっとおかしい場合には、なおさら誰も言い難くいとなって、そのまま売れない作家になって行きます。

そのキャリアにふさわしい、価格があります。謙虚な価格で始めた人は、次第に売れていき、親切にアドバイスしてくれる人を引き寄せます。そしてやがて、少し価格を上げても必ず買う人が出来て行きます。

6.誰が買っているか?

これもよく聞かれた質問でした。ただ売れているだけでは人は価値を感じません。「こんなにたくさん知り合いがいるんですか?」とまで聞かれたことがあります。活動駆け出しの作家がいくら作品を売っても、大抵「知り合いが多いんでしょ?」「応援者に恵まれていますね」と言われます。私自身は、「見ず知らずの人が買いました」と言える日まで、かなり価格を下げていた経験があります。活動初期は、3000円や5000円で作品を売っていた時期があるのです。

途中から、ギャラリーが「もうそろそろ値段を上げようと」と言ってくれた時は、本当に嬉しかった。その原因は、ある時初日前の展示中に見に来て「売れちゃうといけないから」と買いに来た人が現れ始めたことです。そしてその人はこうも言いました。「本当はこの金額でもう少し小さいのが欲しい。小さくてもこの値段だったら、その方がありがたいから」と言ってくれたのです。当時、40号が20万円でした。20号を20万円にしてもらいたいという意味だったのです。40号は大きすぎたのです。でもその人は20万円を作品購入に使いたかった。でも部屋に40号は大きすぎると言っていました。作品を買い集めているコレクターだったのです。

コレクターと言っても、規模はさまざまです。しかし、作品を毎回個展ごとに買って応援してくれる人が現れた時点で、少し価格を上げることが出来ます。

誰が?の答えは、コレクターだけに限りません。「他の作家が買った」「美大の先生が買った」「著名人が買った」買うだけではなく、「芸能人の部屋に飾られている」「テレビ番組で取り上げられた」ということも少し価格に反映されることはあります。

7.メディアで紹介された

以前は、新聞記事に取り上げられた、美術番組で紹介された、ということはかなり価格に反映されたと思います。しかし、最近は、もしかしたら、フォロワー数や登録者数などもその一つかも知れません。「人に知られているか?」ここが作品の価格に大きく関係しているからです。

アドバイス

以上以外にも、作品価格に影響する要因はあるかも知れません。「海外の有名なオークションに出た」などもその一つです。また最近は、新しい要因として「アーティスト・イン・レジデンス」も加えることができるのかも知れません。一昔前でしたら、海外に留学経験や、滞在歴のある作家はそれなりにステイタスを持つことが出来ました。

そしてこれらのことがわかっていると、作家がどのような活動をすれば作品が売りやすくなるか?がわかって来ます。

しかし一方で、これらのさまざまな要因が、次第に明確化していくと、逆にそれが商売として斡旋業者も出てくるようになりました。そもそも、レンタル・ギャラリーがその最初の発端です。今はすっかり定着しましたが、一昔前は、個展発表が生きている間に一度行えただけで、作品の価格が釣り上がりました。しかし、誰もがお金を出せば個展が開けるようになると、その価値が全体的に低下するようになって行きました。今は、留学や海外での制作も、「どういう経緯でできたのか?」によって、評価が変わって来ています。

「闇雲に、無理にお金を出して夢を実現しても、作家や作品の評価につながるわけではないのです。逆に「『お金を積む人』という評判を聞きつけて、ますます案件が追いかけて来ることにもなりかねない」ことも、知っておく必要があります。

結論

作品の価格設定は、なるべくよく知っている人に最初は相談するようにしましょう。いくら自分で「この金額が妥当だ」と主張しても、作品を売ると決めたからには、アート市場の暗黙のルールに従わざるを得ないのです。しかし、お世話になっている人や応援してくれる人、そういう人たちに買ってもらってもしかたないなどとは絶対に思わないでください。

身近に応援者が何人もいる人は、人間的な魅力で、必ず良い作品を生み出し、その威力が全世界に影響することだってあるかも知れません。そして、その応援者の一人が世界的に影響力を及ぼす人になることだって、あるかも知れないのですから。

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